英語や中国語から日本語に翻訳する際、最も大切なのは、その表現力。
原文の意味を汲み取ったうえで、受け手(日本人)が読みやすいと感じ、かつ内容を理解できるよう誘導するのが、翻訳者のお仕事です。
外国語→日本語へと、言葉を変換するだけではありません。
本記事では翻訳者にとって、なぜ日本語の表現力が必要なのか、理由をメモっていきます。
翻訳者に最も必要なのは日本語の表現力
外国人にとって理解しがたい表現が無数にある日本語。
日本人として、そして翻訳者として、母国語を追求していかないといけませんよ。
翻訳=言語変換ではない
翻訳には大きく2つの役割があります。
「ローカライズ」と「カルチャライズ」ですね。
各々の定義は、
■ローカライズ(Localize)
ある国を対象に作られた製品を、外国でも使用できるように、対象国の言語に変換すること。
ソフトウェアの表示を外国語にすること。
■カルチャライズ(Culturalize)
ある国を対象に作られた製品を、販売する国や地域の文化に合わせて、内容を変更すること。
ローカライズは原文(外国語)の意味に限りなく近づけた形で、日本語に直します。
逆パターンとはなりますが、
- 駅構内の看板や案内の併記言語
- 外国人向けのホームページやパンフレット
- スマートフォン本体の表示言語
などは日本語から英語・中国語・韓国語へのローカライズの一例です。
外国語→日本語に翻訳においても、実際はローカライズを意識して行われる場合が多いですね。
一方、カルチャライズは対象国・地域の文化、風習、生活スタイルなどを考慮した上で、表現を改めること。
中国語を例に挙げると、
喝酸奶:直訳は「ヨーグルトを飲む」、日本語だと「ヨーグルトを食べる」
吃药:直訳は「薬を食べる」、日本語だと「薬を飲む」
と口に入れる動作「食べる」「飲む」の概念が日本と中国で異なります。
そのまま訳してしまうと、全然しっくりこないでしょう。
このモヤモヤを解消する作業がカルチャライズになります。
ローカライズは単純な言語の置き換えでも意味が通じる時には有効です。
しかしながら、そのようなケースは多くありません。
翻訳者にはカルチャライズ能力が必須
翻訳案件では、特にカルチャライズ能力が求められます。
難易度が高いのはゲーム、アニメ、漫画といったエンターテイメント系でしょう。
作品中に繰り広げられる原文(外国語)の会話。
登場人物の性格や設定背景を鑑みて、日本人向けに適した表現に変えないといけません。
自分の呼び方は英語だと「I」、中国語だと「我」ですが、キャラクターのセリフでは「私」「オレ」「あたし」「ボク」「ワシ」……と様々な形が考えられます。
人物像を理解した上で、どの呼び方を当てはめるか。
これ1つとっても、カルチャライズの重要度が分かるかと思います。
中国語→日本語の案件で最も多いのがゲーム。
二次元アイドルや三国志など幅広い題材のタイトルが中国で開発され、日本市場でリリースされています。
作品で登場するキャラクター、アイテム、技(スキル)、地域名、通貨は殆どがオリジナル名です。
それぞれの名前を日本語で当てはめる時は、そのまま直訳では意味が通じません。
ゲーム好きのコアユーザーが納得いくかどうか、を常に考えながらカルチャライズを行う必要があります。
翻訳過程で最も難しい作業の一つですね。
機械翻訳では解決できない表現力
もし個人的に、外国語→日本語に翻訳したいのであれば、Google翻訳、Weblio翻訳、エキサイト翻訳を使えばよいでしょう。
(「翻訳」でググれば、無料で翻訳ができるサイトがたくさん表示されます)
原文の意味をおおよそ把握するためなら、上記でOK。
しかし、仕事上でプロフェッショナルな翻訳を行うのであれば、利用してはいけません。
理由は、AIでは原文が持つ本当の真意を汲み取れないからです。
AIは心の意図を読めない
将来的には国・地域間の言語の障壁も、人工知能(AI:Artificial Intelligence)が解消してくれることでしょう。
AIによって、翻訳者・通訳者の仕事がなくなるとの話題も絶えませんね。
とは言え、現時点(2021年)においては、人間の方が数倍・数十倍も翻訳能力が勝っています。
単純な言語の変換であれば、前述の翻訳サイトでも十分。
でも、原文に込められた意図・感情までは読み取れていません。
また逆パターンにはなりますが、日本語の「やばい」は、
- 怪しい
- 厳しい
- おいしい
- かわいい
- おもしろい
- クールである
と状況や場面によって全く意味が違ってきますよね。
「やばい」は特殊ですが、外国語でも同様のケースがたくさん存在します。
これをAIが判断するのは不可能なのです。
文章の独特な背景を把握できない
原文の意図を十分に理解することが、翻訳では大切です。
原文=作者・書き手
であり、相手も人間なので。
作者の心を読み、背景を把握するのは人間が得意としている部分。
そして、それを言葉に書き換えるのが翻訳者です。
外国語→日本語へ如何に美しく表現するかは、機械翻訳(AI)ではできません。
まだまだAIにとって代わることは無さそうです。
日本語力を高めるには読書が一番
機械翻訳(AI)に負けないために、翻訳者・通訳者は表現力を磨かないといけません。
特にテキストベースでの作業が中心の通訳者は、常にアンテナを広げて、身の回りの言葉から日本語翻訳のヒントを見つけたりしています。
最も効果的なのが読書ですね。
- 漫画
- 小説
- 料理
- ファッション
に書かれている言葉を意識しながら読んでいくと、かなり勉強になると思います。
ボクが最近気になっているのは、料理やファッションのコメント。
「つなぎに卵を使った玉子麺でありながら、たまご臭さも小麦粉の粉っぽさもないベストな仕上がり」
→ラーメンの食レポ
「一切れ口に含むと、舌から鼻先へ、花の精のような芳香がすっと抜けて出た」
→フルーツの感想
「甘めのブラウスもパンツと合わせると甘すぎず、バランスの取れたコーデが完成します」
→ファッション雑誌
「暖かくなると取り入れたくなる「花柄」。1枚で華やかな印象へ導いてくれ、春コーデには欠かせないアイテムです」
→ワンポイントアドバイス
ピンと来ないかもしれませんが……どれも間接的に役立ちそうな表現ばかりでしょう。
ボクはゲーム翻訳が主な仕事ですが、キャラクターのセリフの言い回しの参考になっています。
自分の得意ジャンル以外から学ぶことが多いですね。
日本語って本当にボキャブラリーが多いのです。
それは「緑色」の単語一つとっても、分かるでしょう。
(黄緑、深緑、モスグリーン、ライトグリーン、萌葱色、草色……)
外国語→日本語の翻訳に欠かせない表現力。
これを極めることが、翻訳者としてワンランク上に成長するための秘訣です。