日本が誇る世界有数の実業家及び哲学者の稲盛和夫。
27歳で京都セラミック(京セラ)を創業、52歳で第二電電(現在のKDDI)を設立し、剛腕経営で両企業を世界500強に入るまでに成長させました。
彼が語る多くの言葉は企業人・社会人の心を動かしています。
最も有名なのが、若かりし頃に導き出した人生における方程式。
日本のみならず中国文化にも大きな影響を与えています。
稲盛氏の経営思想を深く分析した「日本企業管理経典事例解析」(網勇、張強、姚明暉が共著)は経営者のバイブルとして、国内でベストセラーとなりました。
なぜ彼がそこまで受け入れられているのでしょうか。
稲盛氏は「儒教、道教、さらには日本仏教が私の思想形成に大きく影響しており、その哲学が中国人に親和感を抱かせている」と自己分析しています。
一方、北京大学国際MBA学院長の楊壮氏は、
「中国ビジネス業界ではアメリカ式の合理的理念の弊害を排除する方向に転換しており、新たなビジネス模範を模索している」
と述べ、その過程で彼の経営哲学が中国人の心を掴んだと結論付けました。
本記事では7つのキーワードから、中国人が見る稲盛和夫氏の本質に迫ります。
中国人が稲盛和夫を読み解くキーワード
①仕事にこそ答えがある
なぜビジネスに哲学が必要なのか。
なぜ人々は仕事をするのか。
ビジネスを考える際、最も基本的な質問です。
起業家は常にその答えを持っておかなければなりません。
また企業内に正しい「考え方」と哲学を確立し、従業員に共有し続けるべきなのです。
稲盛氏は1953年に京セラを創業すると、何十年にも渡って研究開発をリードしてきました。
そして、その過程で1つの大きな発見をします。
それは明確な目標というのは、仕事に没頭してこそ生まれるということ。
心にイメージが形成されれば、どんな事象にも意図・理由が見つかるというものです。
同時に、現場にこそ未来を照らす灯があり、知恵をもたらすのだと言います。
現場主義を貫く名言はここから生まれました。
稲盛氏の経験は私たちに大切なヒントを与えてくれます。
目標を追求する際、先入観を捨てて、脳みそを絞って考えれば、新しい答えがハッキリと見えるということです。
逆にボンヤリとしたイメージであるのならば、良い結果や成果は生まれません。
日々の生活の中でも仕事の意味・人生の目的を問い続ける。
「思考」を停止させなければ、自ずと答えが出てくるでしょう。
②アメーバ経営
稲盛和夫氏の代名詞とも言えるのが、「アメーバ経営」。
企業の生産性を最大化する管理会計手法です。
この「アメーバ経営」が生まれたきっかけは、実は中国の文学「西遊記」。
孫悟空の1本の髪の毛から、何千もの猿が飛び出すエピソードから稲盛氏がヒントを得たと言われています。
会社も社員が数千人の集団です。
髪の毛1本1本に焦点を当てるように、組織を細分化すれば、生産性も高まるのではないか。
そこから生まれたのが「アメーバ経営」でした。
2010年、京セラやKDDIでの経営手腕を買われて、破産宣告を受けた半国営企業・日本航空の再建を担うことになります。
代表取締役会長兼CEOに就いたのは2月1日、78歳の誕生日でした。
就任の席で稲盛氏は、
と語り、2つのことを要求しました。
1つ目は無報酬であること。
2つ目は今までの経営陣を退任されること。
責任の重大さを自覚しつつも、大胆な改革を推し進めます。
そして経営が悪化していた日本航空を3年で立ち直らせ、自身の経営手法の正しさを証明させました。
今では日本や中国で「アメーバ経営」を含む経営哲学や理念の啓蒙・普及に努めています。
③人生の方程式
一般的に、人々の違いはIQ、身体、才能など個人的な能力に依存していると考えられています。
しかし、現実はそうではありません。
確かに能力が個々の差を生むのは事実ですが、考え方、哲学、思考力こそが人間の形成に大きな役割を果たしていると稲盛氏は説いています。
能力のみによって人生や経営の成功・失敗が決まるわけではない。
優劣に関わらず、全力を尽くして、真面目に物事に取り組み、熱意をもって誰にも負けない努力をすれば、必ず良い結果が訪れます。
波乱万丈の人生で稲盛和夫は常にそう信じていました。
そこから生み出されたのが冒頭の、
です。
この世の中には、幸せな人がいる一方、苦しんでいる人もいます。
会社内も同様で、出世した人もいれば、競争に脱落した人もいます。
このような大きな違いは一体どこから来ているのか。
考え続けた結果、上記の人生の方程式に辿り着きました。
④起業家特有の戦闘力
情熱を持ち続けていると、物事に対してとても敏感になります。
全く関係ないことにも本能が反応し、大きなヒントや手掛かりへ繋がることがあります。
この臭覚こそが、経営者に必要なスキルかもしれません。
また基本的には人間は怠け者。
そこで社員を奮い立たせるリーダーシップも企業を管理ために不可欠です。
起業家として強くなるためには型にはまらず、時にはプライドも捨てるべきでしょう。
実際のところ、過去の手法が全く通用しない局面にも遭遇しますから。
よって、彼らの戦闘力は新たな毎回リセットされます。
見方を変えると、「ゼロに戻す」能力も起業家特有と言っても良いでしょう。
逆に情熱を保てなくなり、ゼロに戻すことができなくなった場合、その時が退路を決める時だと思います。
⑤損得ではなく、善悪で判断
「欲望」「怒り」「愚痴」。
この3つは自分で制御できない「三毒」と呼ばれています。
考えることを放棄すると、人の心は「三毒」で浸食されていきます。
なので、少しでも善念・善心を持つ努力をすべきと稲盛氏は言います。
自分より周りの人々の幸せを願うこと。
自分のことだけを考えず、利己の心を捨てること。
物事を正しく判断・決断する基準が、「善かどうか」なのです。
企業経営においては、しばしば利益と損益を重視しがち
また感情や虚栄心が影響する場合もあるでしょう。
それらは時として邪魔となり、不都合な結果を招いてしまいます。
稲盛氏が求める善心を備えるには、相応の訓練が必要かもしれません。
しかしながら、善心こそが優秀な経営者の第1条件とも言えます。
⑥敬天愛人、利他の心
ビジネスの世界で浮沈を繰り返してきた稲盛和夫氏。
多忙な時期でも精神・心のメンテナンスは忘れてはいませんでした。
彼はずっと哲学と宗教を研究し続けており、「稲森哲学」の根本には「敬天愛人、利他の心」があります。
これは経営哲学の基盤とも言えるもので、京セラの社是にもなりました。
「敬天愛人」とは「天を敬い、人を愛する」という意味。
明治維新に尽力した武士・政治家の西郷隆盛の言葉としても知られています。
また前述の善良の心は利他主義とも置き換えられます。
利己の心 ⇔ 利他の心
本質的には人は皆、「利己の心」に従って生きています。
しかし、「利他の心」を持って行動し、他人に満足感を与えることで、自分自身にも本当の幸せが訪れます。
京セラもKDDIも業界では高い利益率を誇りますが、故意に価格を上げたり、悪質な競争手法を採用することはありません。
稲盛氏の理念に基づき、企業倫理・コンプライアンスの意識を裾野まで浸透させ、顧客に最高の体験をもたらす製品・サービス(=利他の心)を提供することによって、一流企業へと成長したのです。
⑦人として、何が正しいか
稲盛氏の哲学には、
という箇条があります。
企業経営では不祥事やゴシップが付きまといます。
従業員が多いほど、誤った考えを持つ者や衝動的に悪事を働く者が出てきやすく、避けては通れないでしょう。
このような人たちを正しい道へ連れ戻すために、上記の教訓が存在します。
全社的に共通認識を根付かせて、未然に防ごうとしているのです。
近年、中国国内では企業モラルに係るニュースが後を絶えません。
乳製品を提供する巨大企業が起こした食品安全や偽装問題は、世界的にも負のイメージを与えました。
このような事件が発生する原因の一つが、従業員・組織の社会的責任・道徳心の低さにあります。
「人として、何が正しいか」に沿った判断が出来ない(例えば、目先の利益を最優先してしまうなど)、或いはその考え自体が存在していないが故に、法を犯す行為に走ってしまうのです。
中国社会の深刻な問題を解決する糸口として、稲盛和夫氏の思想が求められているのでしょう。
これは同時に家庭内の教育にも重要な役割を果たします。
当たり前と思えることが、人間として健全である行動が出来ない。
そんな時は「人として、何が正しいか」を自問すべきです。
京セラが設立されて半世紀以上が経ちますが、稲盛氏の根本的な考え方はブレていません。
80歳にして日本航空を建て直すことに成功したという事実が、それを証明しています。
※本記事は下記サイトを元に構成・翻訳しています。
■参考サイト(中国語)
稻盛和夫:人生·工作的结果=思维方式×热情×能力