2020年8月に中国で発表された「食べ物浪費禁止令」。
正確には「拒绝餐饮浪费」というスローガンで、食糧の生産と安全への意識を高めるとともに、飲食店などで過剰な食料の提供・浪費行動を抑制するために提言されました。
このきっかけとなった一つは、実はネット上で公開されている「大食い動画」。
大盛りのカレーライスやラーメンを完食する様子、豪快な食べっぷりにボクたち視聴者も釘付けになっちゃいますよね。
「哔哩哔哩」(ビリビリ、bilibili)には「吃播」(=食事の様子を配信する意味)と呼ばれるワードがあって、関連付けられた動画は約57万本、延べ視聴者数は134.8億回を超えているそう。
(「吃播」(chī bō)は、ライブ配信を指す「直播」(zhí bō)の発音を模倣したネット用語)
一方で、中国の一部の地域では、未だに満足に食べ物を確保できない人々が少なくないです。
そんな状況もあり、中国政府が何十人前もの料理をエンターテイメントのために「無駄」にする行為を問題視。
「大食い」も好まれざるコンテンツとなってしまいました。
これに追い打ちをかけるように、8月末に大きなスキャンダルが発覚。
中国の国営テレビ局「中国中央電視台」(CCTV)が「大食い動画」の裏側をスクープしたのです。
禁止になった「大食い」の裏側をCCTVがスクープ
ビリビリや中国版TikTokの「抖音」(Douyin)にも「大胃王」(=大食いタレント)なる人がいます。
「密子君」もその1人。
2016年にテレビ番組に出演した際、豚足20個、ザリガニ10kg、砂鍋串438本を平らげて大ブレイクしました。
今ではインターネット上で数千万のフォロワーを獲得していて、1本当たりの再生数は50万回以上。
辛さ12,000倍の火鶏麺に挑戦した動画に至っては、ビリビリだけで236.8万回とバズりました。
また、苦しさを表情に出さず、美味しそうに頬張る姿も、人を魅了する秘訣の一つだそう。
毎月の食費も2万元(30万円)に上るというから驚きですね。
ところが、一部の「大胃王」(及びそこを目指す人)の大食いにて不正が見つかりました。
その動画が↓。
全編中国語ではありますが、実際の映像を見るだけでインチキさ加減が分かるでしょう。
ケース①:実は完食に30時間を要していた?
大食い動画では、完食までの過程を早回しにして編集するのが一般的。
しかし、意図的に一部分(一定時間)を切り取ったり、タイマーを改ざんする不届き者が目立っていたようです。
アップされた動画を見るだけでは、カメラは固定され、背景や服装、食器の配置なども変化なく映るため、不自然だとは思いません。
これを利用して「大食い」に見せかけたのが今回の一件でバレてしまいました。
上記の報道では、とあるアップ主のシミュレーション&インタビューも盛り込まれています(1:35くらいから)。
彼がチャレンジしたのは約10袋の焼きそば。
悪戦苦闘しながら、全てを食べ切るのですが……かかった時間は30時間。
モザイクが掛かっているものの、苦しさは伝わってきますね。
ところが編集によって、あたかも短い時間で食べ終えたよう見せることができたのです。
不適切な演出と、大食いの「うそ」を証明してみせました。
ケース②:実は「うそ」食い
番組の中で、もう一つの「うそ」も紹介されています(2:38くらいから)。
年期の入った店の前でレポートを行う厚手のコートを着た1人の女性。
彼女が挑戦するのは、テーブル一面に置かれた30皿の麺料理です。
順調に食べ進めている様子が映し出されるのですが……すぐに別の角度から撮影された動画に切り替わります。
女性の足元にあるのはゴミ箱。
麺を一口含むや否や、すぐに吐き出していたことがバレてしまいました。
ショッキングな映像ですね。
これが正真正銘の食べ物の浪費と言って良いでしょう。
中国語だと「边吃边吐」(食べながら吐き出す)。
これはCCTVのみならず、SNSを通じて社会問題に発展しています。
その他にも類似の問題が後を絶ちません。
例えば、似非「大胃王」が「吃播」で用意した大量のアメリカザリガニ(小龙虾)。
実際は、その多くがプラスチック製の作り物で、中がスッカスカだったことが暴かれています。
また別のケースでは、100本のソーセージを胃袋に収めた動画が物議に。
視聴者によって「うそ」食いが発覚して(全てを食べたわけではなかった)、アップ主は謝罪に追い込まれました。
「大食い」のちょっとした歴史と今後
「大食い」の歴史は100年以上あり、大きなイベントだと1916年から続くアメリカの「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」が最もメジャーでしょう。
1997年には「国際大食い競技連盟」(IFOCE)が設立。
2001年に日本人の小林尊氏が世界記録(当時)の2倍のホットドッグを食べ干して優勝すると、世界中にビッグニュースとして流れ、「大食い」への注目が高まりました。
上記のような大会では、時間内に如何に多く食べるかに焦点が当てられます。
「大食い」×「早食い」で勝利を目指すのですね。
指定される食べ物は地域によって特徴づけされ、ホットドッグ以外にもピザ、ハンバーガー、カニ、肉まん、ワンタン、蕎麦等など。
また日本では「フードファイター」なる名称も誕生、大食い用の特大メニューを提供する飲食店も増えました。
チャレンジメニューに成功すると無料&賞金やグッズが貰えるとだけあって(時間内に完食できなければ有料)、この様子をアップするYouTuberも見かけますよね。
このような世界的な背景もあり、中国でも数年前から「大胃王」が登場し、人気を博してきました。
でも、CCTVのスクープと習近平国家主席の「食べ物浪費禁止令」によって、このブームも終息を向かうことになりそう。
この禁止令が発せられた翌日、各動画プラットフォームや「抖音」にて関連動画の削除・非公開の処置が採られたのです。
さらに「大胃王」と検索すると、
合理饮食,健康生活
食糧を大切に、浪費は反対
適度な食事で、健康な生活
といったスローガンが表示されました。
近年は、多くの人がSNSや動画で稼ぎたいと行動していますね。
「大胃王」もその手段の一つではあったのですが、今回の行き過ぎた行為が自分たちの首を絞める結果になっちゃいました。
食べ物は美味しく頂くもの。
自分の身体を犠牲にして、視聴者を騙し、再生数やお金を稼ぐ道具にせぬよう、大切にしなければいけませんね。
※本記事は下記サイトを元に構成・翻訳しています。
■参考サイト(中国語)
大胃王假吃视频央视曝光