中国で人気があるゲームと言えば、「リーグ・オブ・レジェンド」(League of Legend)や「王者栄耀」といったMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)型のジャンル。
もしくは、日本の声優を起用した二次元系、アクション系のスマートフォンゲームも人気があります。
一方で、街づくりや農場育成といったシミュレーションゲームは余り目立ちません。
お国柄なのでしょうか、他のプレイヤーとの対戦を好む中国人は、一人でコツコツと進めるカジュアルゲームには興味を示しにくいようです。
また課金額も少なくなるため、メーカー側も同ジャンルを開発しにくい側面もあります。
ところが最近、中国のゲーム市場及び業界に変化が見え始めました。
新型コロナウイルスが生活スタイルに与えた影響も関係しているようです。
ゲームユーザーの好みは常に変化
スマートフォンゲームの新たな市場を開拓するには、端末の性能ハイスペック化やユーザー全体のトレンドを意識しつつ、モバイル操作と日常の習慣を考慮する必要があります。
もちろん、最も直接的なのは他のプラットフォーム(家庭用ゲーム機やパソコン)でヒットした作品を、スマホゲームに移植することでしょう。
2020年四半期(1~3月)の任天堂の事業報告によると、Nintendo Switch用のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)の累計販売本数が2,240万本を突破しました。
本タイトルは今年3月にサービスが開始された、無人島でのんびりとした生活を体験できるシミュレーションゲーム。
外出自粛やリモートワークなどで家にいる時間が増えた分、ストレスなくプレイできる「あつ森」が日本で大流行し、「Pokémon G」(ポケモン ゴー)並みに社会現象となりました。
この雰囲気は中国にも伝染していて、今もなおNintendo Switchの需要が高まっています。
ひと昔前にフィーバーした放置系模擬旅行ゲーム「旅かえる」に似ていますね。
これに波乗りするかの如く、中国国内でも田舎系シミュレーションゲームの投入が増え始めました。
有名どころだと「小森生活」(Komori Life)。
「哔哩哔哩」(ビリビリ、bilibili)が手掛ける話題の作品です。
また最近リリースされた「悠長假期」(Tour of Neverland)も、比較的高い注目が集まりました。
App Storeの無料トップランキングでは10位以内に入り込み、国内の売上ランキングも80位前後をキープしています。
ユーザー視点からすると、確かに農場・釣り・家畜育成などの要素は彼らの欲求を満たすことができそうです。
またソーシャル性も高く、万人に受け入れられやすくなるでしょう。
ただし、どの時代にも当てはまるか、と言えばそうではありません。
実際、「小森生活」の開発は2014年にスタートし、3~4年で大元が完成していました。
が、当時はまだMOBAが主流。
投入するには時期早々だったと開発プロデューサーは述べています。
良質な作品は、タイミングが合致してこそ、最大のポテンシャルを発揮できます。
そして今。
ユーザー層が入れ替わり、趣向に変化が見られた時勢にて、「小森生活」をリリースするのが絶好期であると判断されました。
シミュレーションゲーム自体は昔からある一般的なジャンルです。
ところが、日本で「あつ森」が大ヒットしたことで、中国人の興味が高まりました。
RPGやMOBA→シミュレーションゲームへ好みが移りうる可能性もあります。
「悠長暇期」のプレイ画面
様々な機能・システムが凝縮
中国のゲーム専門メディア「Gamewower」は、田舎系経営シミュレーションゲームはソーシャル性、話題性と拡散力が強みであると分析しています。
また若者間で家族や友人を誘いやすく、カジュアルに始められる設計で、爆発的に利用者を増やすことにも繋がると言います。
さらにはゲーム内の育成システムが直感的で分かりやすく、達成感を覚えやすいのも魅力的な点でしょう。
多くのタイトルで見られる主な機能を整理すると、
・家畜(動物の世話)
・釣り
・家のデザイン(家具収集&レイアウト)
・料理
・商店の開業(経営要素)
・施設や乗り物
・洋服/アバター/ファッション
などなど。
細かいシステムを挙げればキリはないでしょう。
これらは多くの人々にとって日常生活はかけ離れた行動であり、新鮮さや没入感を与えてくれます。
一方で、日々のストレスや悩みを解消するのにも役立ち、幸福度を高める効果もあります。
ゲームが必ずしも負の影響だけを与えるのでは無いことが、ようやく認知され始めました。
中国のスマホゲームユーザー数は6.4億人。
本当に面白い内容であれば、瞬く間に広がるチャンスが市場には転がっています。
「あつ森」で証明されたように、口コミの力は果てしないもの。
特に女性を味方にすることがカギとなりそうです。
男性ユーザーに比べると、のめり込み度は強くないでしょう。
だからこそ、誰でも分かりやすい設計や操作で、非日常体験を提供してくれるシミュレーションゲームは女性に向いているのだと思います。
ここを糸口に新たな価値を生み出せれば、「小森生活」や「悠長假期」が次のトレンドに躍り出ることも夢ではないでしょう。
「小森生活」のイメージ
暇つぶしゲームに課金はするのか?
しかしながら、悲しい現実もあります。
「悠長假期」がリリースされて以降、Android版のプラットフォーム・TapTapのユーザーレビューに不満の声が大量に届きました。
ゲームの遊び方については一定の支持を得た一方、課金誘導・要素が強すぎるとのコメントが目立っています。
平均評価は6.1点(10点満点)と、決して高くはありません。
いわゆるソロプレイを楽しむジャンル(=経営シミュレーション)にソーシャル性が加わると、一種の矛盾が生じてしまいます。
一般的なスマホゲーム/オンラインゲームでは、体力(疲労度)やプレイ時間に相応してゲーム内資源が入手されます。
開発側は消費と産出を上手くバランシングしながら、育成状況に応じた必要アイテムやクエストなどによる報酬の設計を行わなければなりません。
これにより、プレイ時間を重ねるごとにユーザーが自ら目標を見出せるようになり、課題をクリアしようとするモチベーションへと繋がります。
ところが「悠長暇期」の場合、課金ありきの設定になっていました。
プレイ時間を割けなくても、アイテムや限定パッケージを購入することで資源が直接手に入る仕組みです。
対戦ゲームで生じるPay to Win(勝利するために課金する)に似た現象が起こりました。
ソーシャル性が絡むと少なからず直面する問題ですが、「悠長暇期」では露骨だったのでしょうか。
「小森生活」でも同様の課題が浮かび上がってきています。
ユーザーによるコンテンツ消化の速度を抑制するために疲労度を導入しているわけですが、課金と引き換えにある程度は疲労度を購入できる手段は必要です。
どこまでを許容範囲とするかは、テストを重ねて検証していくしかないでしょう。
ゲーム内課金とVIP特権
ユーザーの行動データによれば、毎日のクエストを完了すると、その他に費やす時間の殆どがDIY(食べ物、家畜、家具材料などの生産)であるとの結果も出ています。
他プレイヤーとの交流に慣れたユーザーにとっては、「悠長暇期」のシステムに満足いかない点は多いでしょう。
ゲームを有利に進める方法として、課金重視ではなく、時間&ソーシャル性を活用する方向にもっていけるかが、今後の課題だと思います。
前出のGamewowerの見解では、攻略性が低く且つ要素が一般化している(=大きな差別化ができない)作品であれば、将来、同じことが繰り返されるだろうと結論付けています。
国境を越えて「あつ森」が中国で広まったとしても、同ジャンル全般に関しては依然クリアすべきことが少なくありません。
田舎系経営シミュレーションで若いユーザーを囲い込むのは、課金誘導するよりも難関です。
むしろ、暇つぶしのカジュアルゲームが生活に負担をかけ、ドップリ疲れさせてしまうのは、やや本末転倒とも言えるでしょう。
※本記事は下記サイトを元に構成・翻訳しています。
■参考サイト(中国語)
动森之后,田园模拟经营手游的这阵风该如何吹?