アメリカ合衆国で暮らす中国人(華僑)が寝る支度に入った8月6日21:00(東部時間)、衝撃的なニュースがSNSで飛び交いました。
トランプ大統領が、「TikTok」(ティックトック)と「微信」(ウィーチャット、WeChat)を運営する中国企業との取引を、45日以内に禁止にする大統領令にサインをしたのです。
TiKTokは全世界で8億人が利用する中国発のショートビデオアプリ。
WeChatは華僑の人々が常用しているSNSアプリで、中国国内も含め10億人のユーザーを抱えています。
ターゲットとなったのは中国で「抖音」(Douyin、中国版TikTok)を運営する「字节跳动」(バイトダンス、ByteDance)と、「腾讯」(テンセント、Tencent)。
8月初旬より騒がれていたTikTokの制限に加え、WeChatもアメリカでの使用が危ぶまれる事態となりました。
理由は安全保障上のリスク、アプリを通じた情報の自動的な収集、セキュリティ問題だと言います。
微信/WeChatは継続で使用可能
アメリカでは約148万人のユーザーがWeChatを利用しています。
そのうち半分が中国からの留学生、残り半分が現地で暮らす華僑です。
彼らにとって母国の家族や知人と連絡を取るためにWeChatが不可欠なアプリ。
またオンライン決済、タクシーの手配、出前サービスなど生活と密に関わっていて、その影響は計り知れません。
「ワシントン・ポスト」北京支社Anna Fifield氏のTwitter
大統領令によると、デッドラインは9月20日。
それ以降アメリカでTikTokとWeChatが使えなくなる恐れがあります。
(TikTokはアメリカ事業の売却を進行中)
とは言え、もしアメリカのApp Store(アップルストア)からWeChatが削除されても、まだ抜け道は残っています。
中国アカウントのApple ID(アップルID)を使用すれば、中国のアップルストアからアプリをダウンロードすることが可能。
WeChatがアメリカでのサービスを禁止された場合は、アカウントに紐づけされた電話番号を変更することで、継続して利用できると言います。
これは6月末に起こったインドでの中国アプリ禁止令と、同じ対処法ですね。
政策あれば、対策アリ
話が脱線してしまいました。
WeChatユーザーは念には念を押して、ということでしょう。
8月6日の発表を受けて、アメリカで生活する華僑はWeChatタイムラインに自身のアカウントIDやQRコード、連絡情報を残し始めています。
こちらもインドでの前例を踏まえての行動ですね。
それでも不安や懸念は払拭されません。
Twitter上ではテンセントのインスタントチャットアプリ「QQ」(キューキュー)へ移行する言動も目立ちます。
WeChatの禁止は華僑以外へも影響を及ぼしました。
中華圏のコミュニティと関わるアメリカ国内の記者やメディア、オブザーバーなども今回の事案に驚いています。
中国とアメリカの対立に一層拍車が掛かれば、他の国々も対岸の火事とは言えなくなるでしょう。
なお中国と東南アジアのセキュリティ研究専門家は、本件と中国企業とは関係なく、アメリカの内政に関わる問題との見方をしています。
セキュリティ研究専門家Michael D. Swaine氏のTwitter
いずれにせよ、トランプ大統領が中国アプリや企業の成長性(及び安全性)に脅威を抱いていることが大きな要因と思います。
テンセントのゲームはどうなる?
利用者数や生活の密着度から見れば、TikTokよりWeChatの制限、バイトダンスよりテンセントのサービスの停止の方が、影響範囲が広いでしょう。
トランプ大統領が最も神経質になっているのは、WeChatから大量の個人データ、通信記録、チャット内容が中国政府へ流れていること。
国家のセキュリティに関わるリスクです。
大統領令の中に記載されたテンセントとの禁止事項。
これにはテンセントの子会社ならびにWeChatを通じた取引が含まれています。
現在WeChatの機能の中で、チャット以外で一番多用されているのがマネーの送金です。
アメリカの有名な企業も公式アカウントを立ち上げ、オンライン上で商品の販売&決済に利用しています。
スターバックス
ナイキ
P&G
上記の大企業も対応策を迫られることになるでしょう。
大統領令が発令後、Twitter上では「Tencent」の単語がトレンド入り。
多くのアメリカ人の間で、テンセントが所有するゲーム事業にも波及するとの憶測が流れ、同社の株価は一時10%も下落しました。
では、実際はどうなのでしょうか。
「ラスベガス・タイムズ」の記者Sam Dean氏は、
とTwitterに投稿。
テンセント傘下にあるゲーム会社はサービスを継続できると述べました。
世界で最もプレイされているオンラインゲーム「League of Legend」(リーグ・オブ・レジェンド)を開発した「Riot Games」(ライオットゲームズ)と、登録者数が3億5,000万人を超えているシューティングゲーム「Fortnite」(フォートナイト)を提供している「Epic Games」(エピックゲームズ)は、対象外となっています。
両タイトルはアメリカで1、2を争う人気のゲーム。
アップデートのタイミングが遅延する可能性もありますが、国内ユーザーにとっては、一安心といったところでしょうか。
排除対象となる次の中国企業・アプリは?
トランプ大統領が署名を行う前日の8月5日、アメリカ国務長官のポンペオ氏が5つの分野で中国企業を締め出す「Clean Network」を発表しています。
② Clean Store:App Store / Google Playから中国アプリを削除
③ Clean Apps:中国産スマートフォンへのアプリダウンロード阻止
④ Clean Cloud:中国のクラウドサービスを使用不可
⑤ Clean Cable:中国からのインターネット接続制限
これらのうち、①~④に中国の企業やアプリを紐づけていくと、
→China Mobile、China Telecom、China Unicom
② アプリ
→TikTok、WeChat
③ スマートフォン
→Huawei、OPPO、VIVO、小米(Xiaomi)
④ クラウドサービス
→Baidu、Alibaba、Tencent(BAT)
これまでは「华为」(ファーウェイ、Huawei)が安全保障上の脅威として、アメリカ政府のターゲットにされてきました。
それが今や中国国内のみならず、世界市場へ進出している大手IT企業も対象に入りそう。
かなり大胆な施策ですね。
目下のところ、「Clean Network」の行使について、具体的な日程は決まっていません。
が、まず始めにアメリカのアプリストアから中国アプリがダウンロードできなくなるでしょう。
TikTokとWeChatの他、中国版Twitterの「微博」(ウェイボー、Weibo)や動画作成アプリ「Likee」(ライキー)も含まれると囁かれています。
また中国の通信会社への制限も気になるところ。
通信ネットワークが規制されれば、中国から旅行者はローミングが出来なくなります。
(未だ新型コロナウイルスが収まらず、自由に行き来できる状態ではないですが……)
懸念点を上げれば切りがありません。
中国政府も黙ってはいないでしょう。
中国外交部のスポークスマン・汪文斌氏は、
と述べ、強く反発しました。
今後は中国とアメリカの衝突が更に激しくなるかもしれません。
もしくは、中国の経済的な応酬・報復も予想されます。
※本記事は下記サイトを元に構成・翻訳しています。
■参考サイト(中国語)
微信禁令后,美国华人的漫长一夜
弊社がホワイトハウスに確認したところ、EO(Executive Order)で禁止されるのはWeChatとの取引のみ。